平成29年2月20日 転職者300万人回復

平成29年2月20日 転職者300万人回復

2017年02月20日(月)11:35 AM

転職の市場が広がっている。2008年のリーマン危機後に大きく落ち込んでいた転職者数は16年、7年ぶりに300万人の大台を回復。人手不足やグローバル化で中年層の管理職らにも転職の門戸が広がるなど、労働市場の大きな構造変化が進んでいる。転職後の給与の方が転職前より上がる傾向も鮮明だ。ミドルになると求人が減る「転職35歳の壁」は過去の姿になりつつある。

 

総務省が17日発表した16年の労働力調査(詳細集計)によると転職者数は前年より8万人増えて306万人となった。09年(320万人)以来の高い水準で、リーマン危機前のピーク(346万人)に向けて着実な回復が進む。

 

1990年代以降、パートや派遣など雇用期間が不安定で転職率の高い非正規雇用の割合が上昇し転職市場も成長を続けた。こうした「転職は非正規が主役」という常識も崩れかけている。転職者数に占める35歳以下の若年層の割合はこの10年で低下が続く一方で、大きく存在感を増しているのが中年層だ。実際、16年調査をみると45~54歳の転職者数は50万人と、統計を遡れる02年以降では最多を記録した。実際の人数ではまだ25~34歳(77万人)をはじめ若い年齢層を下回るものの、3年で10万人増えており増加テンポが速まっている。ベテランの管理職らのニーズが強まっていることが背景だ。

 

人材サービスのエン・ジャパンが運営する転職サイト「エン転職」では、小売りや流通での求人掲載数が17年1月期までの1年間で前の1年間と比べて42%も増えた。コンビニエンスストアなどの店舗拡大に伴い、おもに店長として働く管理職人材のニーズが強い。

 

専門性の高い人材の需要も大きい。求人サービス大手のインテリジェンスがまとめた1月の中途採用求人数は前年同月より23.4%多い約16万件だ。26カ月連続で過去最高を更新した。電気・機械の技術者が35%増、企画・管理も27.9%増と大きく伸びている。日本電産は技術力の強化に向け、2年間で課長級以上約1000人を中途採用する方針だ。アシックスは海外事業の急拡大に合わせて、13年から管理職の中途採用を本格化している。

 

今の40歳前後は1990年代末から2000年代初めの就職氷河期に採用試験を受けた人が多い。企業内で経験を積んでマネジメント能力を高めた人材が上の年齢層よりも手薄とされ、管理職を外部に求めるケースが増えたようだ。成長の活路をアジアなどに求める中で企業が海外経験の豊富な中年層に人材を見い出している面もある。

 

日本人材紹介事業協会(東京・港)がまとめた人材紹介大手3社の紹介実績によると、41歳以上の転職者数は16年4~9月期に3108人。前年同期と比べ27.4%も増え、世代別に見ると25歳以下に次いで伸び率が大きかった。

 

転職市場の需給が引き締まりつつあることで収入面にも好影響が現れている。厚生労働省によると、転職で元の職場よりも年収が「増えた人」は15年に初めて「減った人」を逆転した。転職によって「1割以上賃金が増えた」と答えた人の割合も高まっている。

 

リクルートキャリア(東京・千代田)の調べでもIT(情報技術)エンジニアで転職で年収が1割以上増えたと答えたのは16年以降、全体の26%前後で推移。14~15年と比べて4ポイント程度増えた。「求人倍率は14年から上昇しており、賃金にも波及した」(同社)という。「転職先の企業が内定を出した後に、今の企業が給与を引き上げて退職を引き留める例も増えた」(エン・ジャパン)

 

人材争奪で転職市場がさらに活性化すれば賃金の上昇圧力も強まる。企業は固定費増につながるが、家計の所得は増えて回復の鈍い個人消費を刺激しそうだ。中年層を含む雇用の流動化で中長期的には「生産性の高い業種や企業に人材が流れ、日本経済の潜在力を押し上げるきっかけになる」(第一生命経済研究所の星野卓也氏)。正社員の流動性が高まれば、能力を持った非正規も正社員に登用される機会が増える可能性がある。



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